咬合平面の不正
咬合平面の不正を改善した症例
(画像:中)初診時の口腔内写真です。下顎の正中(前歯の中心)は約1ミリ左にズレています。また、下顎右の6・7番が欠損しているため、上顎右の5・6・7番が挺出し、咬合平面が乱れています。
前歯部の被蓋は正常に近いですが、審美的問題があります。
(画像:左)上顎咬合面観では、上顎右2・3・4番がやや舌側に転位しています。これは態癖(頬杖や口呼吸などの悪癖)が原因である可能性が高いです。また上顎の左右の前歯は唇側に転位していますが、こちらも力の関与が疑われます。
(画像:右)下顎咬合面観では、 下顎右6・7番が欠損しており、顎堤の幅が吸収して狭くなっています。さらに下顎右4・5番は舌側に転位しており、態癖が疑われます。左下臼歯部は補綴物が装着されており、親知らずもあります。
パントモX線写真では顎関節の大きさは左右均等ですが、スピーの彎曲(下顎の歯列を横から見た際、その咬頭を連ねると上に向かって凹湾した線になる状態)がやや強いです。右下顎6・7番の欠損部は垂直的な骨の厚みが確認できます。下顎左の親知らずは移植可能な根の形をしています。
日時(初診) | 1994年5月 |
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年齢・性別 | 45歳 女性 |
主訴 | 下顎左側プリッジの違和感 |
主な治療経過 | 1994年5月 初診 基礎治療、歯の移植治療 1995年6月 再評価(プロビジョナル装着) 咬合平面の修正 1996年1月 補綴治療終了 メインテナンス開始 1998年10月 5コア脱離→MTM 2001年6月 7歯周炎の急発→歯の移植 2009年12月 3歯根破折→インプラント埋入 2014年8月5コア脱離 C4→ MTM |
治療方針 | ・咬合平面の修正 ・水平的顎位の修正 ・態癖の改善 ・臼歯部の咳合改善(歯の移植) |
治療後の口腔内
(画像:中)術後の正面観です。下顎は術前と同じく左へ約1ミリズレています。臼歯部の咬み合わせを整え、正面と矢状面の咬合平面を改善しました。
(画像:左)上顎咬合面観では、上顎右の5・6・7番は咬合平面の修正のため冠を装着しました。奥歯は噛む力が強いため、咬合面の補綴物は耐久性の高いメタルを使用しました。
(画像:右)下顎咬合面観では、 下顎右の7番に下顎左の親知らずを移植してブリッジにしました。下顎の5・6・7番は噛む力に対応するため、咬合面の補綴物を耐久性の高いメタルにしました。
治療後のレントゲン画像です。咬合平面は改善され、スピーの彎曲についても適度に修正されました。左下顎7番はやや手前側に傾斜しています。移植した親知らずの経過は順調です。
治療から19年後の口腔内
(画像:中)術後19年の正面観です。術後4回のトラブルがあり、臼歯部の再治療時に下顎位を修正したことで上下の正中が一致しました。
(画像:左)上顎咬合面観では、 上顎右の7番は患者さんの希望で2001年12月に下顎左の7番に移植しました。また、上顎右の3番は歯根破折のため、インプラントを埋入してメタルボンド冠を装着しています。
(画像:右)下顎咬合面観では、態癖(頬杖や口呼吸などの悪癖)のため、右臼歯部が舌側に転位しています。また下顎右の2番は唇側に転位しています。左下臼歯部は1999年と2015年に再治療をしました。
術後19年のレントゲン画像です。咬合平面は改善しています。術後のトラブルで下顎臼歯部と上顎右7・3番に変更が生じました。下顎位は改善されています。
顔貌の変化
初診~治療後19年の顔貌の変化です。術前は頭部が左に傾斜し、猫背気味でした。頬部の膨隆は右が大きく、口唇は乾燥気味でした。術後は首の傾斜、猫背が改善されました。右頬部は変わらず膨隆が大きいです。術後19年では、頭位は良好、猫背も改善されて姿勢が良くなりました。さらに、頬部の膨隆や口唇の乾燥のついても改善されました。口呼吸への指導の効果が現れています。
側方面観の変化
【初診時の右側方観】右上臼歯部は挺出しています。右下大臼歯が欠損したことと元々右咀嚼でスピーの彎曲が強かったことが原因と考えられます。上顎右2番の両側に隙間が確認できます。
【治療後の右側方観】歯冠長延長術を行い、右上臼歯部の咬合平面を修正しました。下顎右7番に親知らずを移植して、ブリッジを装着しました。
【術後19年の右側方観】#上顎右の7番は下顎左の7番に移植しました。上顎右の13番は、歯根破折で抜歯となったため、インプラントで咬み合わせを回復しました。下顎右の7番の移植歯は良好です。下顎右の2番は態癖の力で唇側に転位しています。
ナソヘキサグラフ 術後14年2010.8
術後の顎運動描記(ナソヘキサグラフ)については、開口度とスピードは良好であるが、機能時には不安定感が残っています。矢状面では、限界運動、機能運動共に良好で中心咬合位は収束しています。
前額断では、限界運動は良好ですが、最大開口時にやや右に偏位しています。水平断では、左側方運動時や閉口路の中間部で動きが良くありません。
問診票における改善率
まとめ
対合歯がない期間が長いと、 歯は挺出移動することが多いです。 そのままの咳合平面で治療すると咬合平面は偏位して力学的に好ましくないうえに、 欠損部の補綴スペースも少なくなり、 治療が難しくなります。 この症例では、 前頭面では左上がり、矢状面ではフラットになっていました。
義歯の場合は天然歯ほど力強く噛めないために影響は出にくいと思われますが、歯の移植やインプラントでは咬合能力が向上するため、大きな力となります。 その力の方向性が生体にマッチしていないと顔面、頭部、 顎部を中心に問題が起こりやすくなります。 特に、更年期を迎える女性は注意が必要です。
術後には、①下顎右5番のコア脱離 (1998年 10月)・ ②下顎左7番の歯周病の急発 (2001 年8月)・③上顎右3番の歯根破折 (2009年 12月) ④下顎左5番の歯根破折 (2014年8月)と、力に関する問題が4回起こり、下顎臼歯部の再補綴治療の機会がありました。その際に顎位を調整したため、きちんと修正ができました。
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