重い肩こりと顎関節症が改善した例
上の2枚の写真は治療の前後の比較写真です。皆さんはどこが変わったかお判りでしょうか?
治療後の方が下の歯が良く見えていますね。これは、噛み合わせの高さを改善したからです。噛み合わせの高さの改善は非常に難しい治療ですが、それをどういうふうに行っていったかをご説明します。
【初診時の状態】
こちらの患者さんは、奥歯の欠損、歯の傾き、噛みしめもあり、深い噛み合わせでした。歯周病は力のかかる上前歯で悪化しており(歯周ポケット最深部6mm)、顎関節は左側に雑音と痛みがある顎関節症でした。また、頚部と肩の凝りは左右とも強い状態でした。
日時(初診) | 2008年12月 |
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年齢・性別 | 65歳 女性(大学講師) |
主訴 | 虫歯、歯周病、顎関節症、口を閉じる時の顎関節の痛みと音 |
治療方針 | 奥歯の噛み合わせを精密仮歯で左右同時に挙上(持ち上げる)し、下顎が前方へ移動した時の前歯上下の噛み合わせが適応するのを確認。その後、最終被せ物を装着します。 前歯については、今回は保存的治療のみとする。 |
噛み合わせ器械による診断と治療
噛み合わせ挙上の手段としては、噛み合わせ器械上で製作した精密仮歯を歯に被せ、1日で噛み合わせを挙上しました。
事前に噛み合わせ器械の前方部で約3 mm噛み合わせを挙上し、噛み合わせ器械の後部を約1mm挙上した上で精密仮歯を製作しました。精密仮歯を両側同時にお口に入れ、噛み合わせを拳上して患者さんに試用していただきました。※骨に植わっている歯の長さの関係で挙上できる安全域は限られます。
噛み合わせ挙上後、前歯の擦れあいには問題が出ませんでした。
※何度も挙上すると敏感な筋肉のセンサーは刺激に耐えられず、挙上の違和感が増し治療は失敗してしまいます。
治療後と治療後5年経過の様子
被せ物装着後、右側犬歯で約3mm挙上されていました。治療後は下顎の右側への偏位が改善され、正中(歯の中心)が合ってきました。V字型アーチの上下顎では、奥歯の被せ物を再治療しましたが、矯正治療の希望はなくアーチはそのままの状態です。噛み合わせの高さを挙げるため、右下のブリッジは被せ物で挙上を行なっています。全体X線写真では、顎関節が約3ミリ噛み合わせ挙上し、前下方に下顎が出たため、治療後には顎関節症の痛みも改善されました。
治療後はメインテナンスにはほとんど来院されず、ホームケアのみでしたが、現在までのところ歯や体調に問題はなく、噛み合わせ拳上してからは快適とのことです。正面写真では、癖は残り下顎の位置は右へズレはじめています。
前歯の骨の隆起が成長しており、上顎の隆起は5年経って少し成長したことが確認できます。これらは噛み締め癖の力が依然として続いていることを意味しています。また、V字型歯列は一層強くなりました。下顎では、奥歯まで内側に傾斜が強まり、特に右下の歯は一層内側に傾斜していました。癖が原因と思いますが、患者さんはさほど気にされておらず、改善の希望もありませんでした。
側方の治療前·治療後の比較
右側の経過です。治療前に深い噛み合わせで右下犬歯はほとんど見えませんでしたが、約3mm噛み合わせを挙上したことで、右下犬歯が約3mm位見えてきました。また、それと同時に体調も改善されたとのことです。
治療後5年経過して、治療後に比べて噛み合わせはやや深くなっていました。また、下顎全体は奥歯が挙上されたと同時に前下方へ約0.6mm位移動しました。これによって、今まで下顎が気道を圧迫して狭くしていたものが解放されたと考えられます。
顔貌
顔と口元の比較です。5年経過して顔は色艶も良く落ち着いており、下顔面の強い緊張もなく自然です。治療前に比べ、頸部の皺も増えていません。ほうれい線は変わりなく深いですが、運動もされており、健康的です。口の形は左右対称になってきました。口と噛み合わせ面の関係も改善され、平面の延長上が口角となっています。今までのところ、噛み合わせなどに問題もなく体調も良いとのことです。
正面の比較
治療前に深い噛み合わせで下前歯は少ししか見えなかったが、約3mm噛み合わせを挙上したことによって、1/2位が見えてきました。治療後5年経過して、噛み合わせの高さはほとんど変わっていません。しかし、同時に行っていた右側にズレていた下顎の修正については、5年経って後戻りを始めています。前歯外側の骨の隆起が成長し、また、全体的に内側傾斜が強まりました。原因と思われる癖の改善は希望されていません。
全身的所見
【問診票での術後の大きな改善点】
- 顎関節の雑音と痛みの改善
- 肩こりの改善
- 起床時の頭痛の改善
まとめ
治療前は、下前歯が部位によって見えない位の深い噛み合わせの患者さんでした。頸の圧力を軽減するためと、奥歯の被せ物治療のために噛み合わせ挙上を犬歯で約3mm行いました。奥歯の噛み合わせ挙上は精密仮歯で1日で挙上し、経過観察を約1ヶ月行いました。
患者さんは新しい噛み合わせに対して、違和感なく受け入れられ最終被せ物に移行しました。前側方擦れあいについては、前歯の調整もなく順応し、その結果不定愁訴の肩凝り、頭痛が改善されたとのことです。さらに、顎関節の疼痛と音が無くなり、顎関節症はなくなっていました。治療から約6年経過した現在、やや後戻りも見られるが良好な状態です。