はじめに
私が卒後間もない頃、噛み合わせを悪くする患者体験をしました。そこで得た経験を礎にその後積み上げた治療と理論を基に本ブログを連載したいと思います。
それによって、その後治療を行う上での歯の価値観が変わり、予防、治療、メインテナンスに対する医院全体の取り組みが変化していきました。
健康を維持するための10の要素
お口と全身の健康を維持、増進する主な要素は下記の10つであると考えています。
健康なお口
食事
運動
姿勢
呼吸
ストレスコントロール
睡眠
排世
禁煙
節酒
これらを実行していくと自然とお口を含めた全身の健康が得られるのではないかと考えています。
血液は心臓から全身を廻って酸素を送り、老廃物を回収、さらに各臓器からの化学物質を全身に届けるなど、全身は一つのネットワークになっています。
お口と全身が繋がっていることは、脳をみれば理解できますし、歯茎も歯も全身を巡る血液の影響を大きく受けることは明らかです。
理想的な口腔
私が患者さんの口腔を診断する際は、理想の口腔と比べて何が足りないのかを診ながら、咬合の状態を診断しています。
お口の主な3つの病気
お口の主な病気は、①虫歯②歯周病③噛み合わせ(歯並び、力関係)の3つです。虫歯や歯周病が進行して歯がなくなると、噛み合わせも悪くなることがあります。ですから、噛み合わせが悪くならないためにも虫歯治療や歯周病治療で予防することが重要です。
しかし、それを実行するのは口で言うほど容易ではありません。治療については、現実的にさまざまな条件、制約もあって思うようにいかない症例もあります。しかし、出来る限り原因を押さえた治療を行うよう患者さんと接しています。
これから解説する「噛み合わせ治療の5つの重要ポイント」と「噛み合わせが悪化する10の要素」は咬合治療を行う上で基準、指標として臨床的に捉えることができる私の現在の指標です。
噛み合わせ治療の5つの重要ポイント
虫歯や歯周病で崩れた噛み合わせを修復する際、噛み合わせ治療で最も重要と考えている事が以下の5つです。
垂直的顎位(噛み合わせの高さ)
水平的顎位(顎のズレ)
側方ガイド(車で言うハンドル)
上下の歯を噛み合わせた状態で下顎を横に動かした時、スムーズに動かせるよう、ガイド(誘導)する歯や接触関係のこと。
咬合平面の方向(歯並びの角度)
力(歯ぎしり・噛み締めのコントロール。頬杖などの体癖の改善)
これらの5つは解剖学、生理学と力学を中心とした考え方です。
噛み合わせを悪化させる10の要素
また、多くの患者さんを診ていくうちに他の要素も関与していることが分かってきました。それが下記の「噛み合わせを悪化させる10の要素」です。
早期接触(一部の歯から当たる)
上下の歯を噛み合わせた際、適切な接触をする前に一部の歯が先に当たってしまう状態。
咬合干渉、咬頭干渉(大臼歯が横の動きでぶつかるなど)
上下の歯を噛み合わせた状態で左右・前後に顎を動かした際、スムーズな動きを妨げる歯のひっかかり。
臼歯部の咬合支持不足
臼歯部(奥歯部分)にかかる噛む力が適切な数値よりも弱い状態。
上下顎のはまり込み
顎関節への負担、耳への影響
偏咀嚼(左右均等に噛まない癖)と顔面の歪み
筋肉の突っ張り
姿勢の歪み
非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)※歯以外が原因の歯痛
歯には直接的な原因がないにも関わらず、周辺組織の神経への刺激や筋肉痛などの様々な要因によって歯が痛みを感じる症状。
ストレス
これらの要素を含む実際の治療例を示すことによって、皆さんが口腔への理解度を深め、有意義で健康な人生を送る一助にして頂ければ幸いです。
【参考文献】
武内久幸『症例から読み解く咬合の5大因子・の要点』咬合医学の臨床入門 医歯薬出版 2020年
武内久幸『長期症例から考える咬合治療の可能性』補綴臨床016:49(3):298-310